いっちゃん

小学校のとき、いっちゃんという女の子が居た。おとなしかったけれど、私たちと同じように話が出来なかった。「いや」「あそぼう」単語だけだったような気がする。体が大きくて肌はまっしろで関節がないみたいにつるんとしていて指がきれいだった。みんなとちょっと違ういっちゃんはみんなにいじめられた。

私はいっちゃんがかわいそうだったし、いっちゃんが悪い事もしていないのにいじめられるのが許せなくて、いっちゃんと仲良くした。いっちゃんは、イヤなことがあると我慢できなくて学校から逃げ出す。先生が連れにいっても、鉄の門にへばりついて引きはがせなかったけれど、私が迎えにいくといっちゃんはいっしょに教室に戻った。いっちゃんのお母さんは、私をお誕生日会に呼んでくれて何度もお礼を言ってくれた。お誕生日会のごちそうは大きなゼリーやお料理があって土間から井戸が出てる台所に似合わないハイカラなもんだった。いっちゃんは家ではたくさんしゃべることが出来たし、小さい頃の写真や色々なものを見せてくれて、その時の顔は本当にしあわせそうだった。今でも部屋の様子やいっちゃんの顔を覚えてる。普段話さないいっちゃんが家で私の事をお母さんにいっぱい話してくれたんだと思って、私はうれしくてものすごくしあわせな気持ちになった。「お願いね」ってお母さんに頼まれて、私はもっとはりきったと思う。

けれど、それからしばらくして私は学級会で問題になった。「いっちゃんのことは自分にしか出来ないと思っている」という事を言われたのを覚えている。え?って感じだった。班の子が行くのを遮って駆けつけたことがあったのを思い出した。確かに他の子には連れて来れないと思ってた。自分が一番信頼を得てるとおもってるから「私の役目」としてはりきったのだと思う。大事なのはいっちゃんが傷つく時間が少なくて、トラブルが治まる方がいいと思ってた。それが何でいけないのかよくわからなかったけれど、みんながイヤだと思う事はわかった。わからない私はいちいち考えなきゃ行けないからそれからいろんな事がめんどくさくなった。いっちゃんと一緒にいる事がうれしくなくなった。

私は自分がいっちゃんに好かれていると威張ったんだろうか、みんながやりたかったのに「私が、私が」と出しゃばったんだろうか。みんなが出来ないと馬鹿にしたんだろうか。そう思ってたらそんな気がして、かといってみんながいっちゃんを好きでない事はわかってたから協力も出来ず、自分を守るために私はいっちゃんからはなれた、と思う。一番は「私はいっちゃんを好きなんだろうか?」と思ったらわからなくなってしまったのが理由だったのかもしれん。いっちゃんさえ居ればいいわけじゃなかった。友だちはいっちゃんだけじゃなかった。

あのとき先生はなんて言ったんだろう?私はなんでもっと意見しなかったんだろう。いっちゃんが悲しい目で私を見ていたのが記憶に残っている。六年生になる頃にはいっちゃんは私を見なくなった。いっちゃんとお母さんはがっかりしただろうと思う。中学生になっていっちゃんは特別なクラスに入った。それで私は完全に接触することはなくなった。

その事は、ずっと心に残る影になった。いっちゃんも私も辛かったと思う。それから察する事に敏感になって考えて心をつかむ事が上手になったけど、忘れて夢中になると出来ない。大人になっても同じパターンでいろんな問題が起きた。

いま、私がその時の私に声がかけられるなら私だけが間違っているわけじゃないし、頑張ったね、そりゃイヤだよね、辛かったねってまずは言ってあげたい。我慢して閉じ込めた心をやわらかくほぐしてあげたい。イケちゃんと僕のイケちゃんみたいに。

自分に厳しすぎたと思う。だから人にも厳しかった。今はずいぶん楽になった。今の私はあのころから変わっていない私が動いている。けど、自分にだけ注目しつつある。自分を信頼し始めているから。それは自分以外の人を信頼する事と同時に起きることだ。そこのあたりを本当は書いておきたいんだけど、今日はもう書けない。いっちゃんは今どうしているだろう。話してわかるだろうか。けれど、私はいっちゃんを楽しみに出来ない。ごめんねって言うだけじゃまた悲しいと思う。でも、私が今考えている事が叶うなら、あのころのいっちゃんや私のような子もすごくしあわせになるはずだ。そんな事を目指してる。

コメント (1)

  1. LoveBeer_tk より:

    こんばんは
    いつもゆぎさんの大きな愛に感謝です。
    絵は家の額に収めさせて頂いてますが、ブログは初見でした。
    私も似た様な経験がありましたが、私はそこまで問題にならなかったし頑張れませんでした。
    私の場合異性なので、変な意味で冷やかされるのが恥ずかしかったって子供心が働いてしまったんですけど。
    それを踏まえてハンディや弱い者を攻撃する側ににはまわらないで生きてこれたと思います。
    今のゆぎさんの事を知れ分かると思いたいです。

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